「強盗・強制性交等罪」等の条文
強盗・強制性交等罪及び同致死罪は、刑法第241条で規定されています。

うわーっ!
条文が長すぎて全然頭に入ってこないウホ!

刑法第241条では、強盗・強制性交等罪と強盗・強制性交等致死罪、そしてその未遂に関する処罰規定について定められているよ。

じゃあ、わるべく分かりやすいように噛み砕いて説明していくよ!
犯罪の主体
本罪の主体となるのは、「強盗の罪を犯した者」又は「強制性交等の罪を犯した者」となっています。
強盗の罪
本罪における”強盗”には、刑法第236条:強盗罪のほかに、同法第238条:事後強盗罪や同法第239条:昏睡強盗罪の犯人が含まれます。
強制性交等の罪
本罪における”強制性交等”には、刑法第177条:強制性交等罪だけでなく同法第178条第2項:準強制性交等罪が含まれます。
ただし、強盗と同一機会に犯されることが想定し難い監護者性交等罪(同法第179条第2項)については除くと明文化されています(同法第241条第1項)。
本罪における”強制性交等”に該当する犯罪については、次のページで解説しています。

平成29年における改正点
従来の刑法第241条は次のように定められていました。
つまり、犯罪の主体は”強盗犯人”に限られていました。

え?
じゃあ、強姦犯人が同一機会に強盗をした場合にはどうなっていたウホ?

その場合は強姦罪と強盗罪の併合罪となるとされていたよ(最判S24.12.24)。
強盗犯人が強姦した場合⇒強盗強姦罪
強姦犯人が強盗した場合⇒強姦罪と強盗罪の併合罪

…何かおかしくないウホ?
犯行の順番で刑の重さが変わるウホ?

改正前の刑法では、強盗強姦罪の法定刑が無期懲役又は7年以上の有期懲役(20年以下)であるのに対して、強姦罪と強盗罪の併合罪の処断刑は5年以上30年以下の懲役となっていたんだ。

つまり、法定刑の下限だけでなく、無期懲役という刑が選択できるか否かいう点で、両者に大きな差が生じていたのさ。

でも、平成29年の刑法改正で犯行の順番は関係なくなったウホね!
犯罪の客体
強盗の罪の客体
他人の財物
他人が占有している他人の財物のことをいいます。
自分の財物であっても、他人の占有に属しているものは”他人の財物”とみなされます。
他人の身体
自分以外の他人のことをいいます。
ここでいう”他人”は財物の所持者に限られません。
強制性交等の罪の客体
男女の別を問いません。
行為
強盗・強制性交等罪の行為は「強盗の罪を犯した者が強制性交等をすること」又は「強制性交等の罪を犯した者が強盗をすること」です。
改正前の強盗強姦罪については、判例上は「強姦行為は、強盗の機会に行われる必要がある」と解されていいました。
ですので、強盗・強制性交等罪が成立するためには、強盗の行為と強制性交等の行為とが同ーの機会に行われる必要があると考えられています。
また、同一の機会に行われているのであれば、強盗の行為と強制性交等の行為の先後関係は問いません。
”同一の機会”に該当するかの判断基準
改正前の強盗強姦罪では、”強盗の機会”に強姦をしたと評価できるかどうかについては下記の点を総合的に勘案して判断していました。
・強盗行為の被害者と強姦行為が同一か否か
・強盗行為で用いられた暴行・ 脅迫を強姦行為に利用しているか
よって、強盗・強制性交等罪における「強盗の機会」や「強制性交等の機会」についても、同様の判断基準によって該当性を判断すると思われます。
”未遂”に関する規定
未遂の場合に成立する犯罪について
強盗・強制性交等罪は、結合関係にある強盗の行為と強制性交等の行為とのいずれもが未遂であっても成立する罪として規定されています。
つまり、強盗、強制性交等のどちらか片方が未遂の場合はもちろん、強盗と強制性交等のどちらの犯罪も未遂の場合であっても強盗・ 強制性交等罪が成立します。

強盗・強制性交等未遂罪という罪名は存在しないウホ!
未遂の場合の減軽事由
刑法第241条第2項では、強盗・強制性交等罪のうち、強盗の行為と強制性交等の行為とがいずれも未遂であり、人の死傷の結果が生じていない場合に任意的に刑の
減軽を認めています。
また、同項ただし書きでは、任意的な刑の減軽を認めるべき場合のうち、強盗の行為と強制性交等の行為とのいずれかについて自己の意思で中止した場合には、必要的に刑を減軽又は免除するとしています。
傷害の結果が生じた場合について
傷害の結果が生じた場合、つまり”強盗致傷”や”強制性交等致傷”に該当する結果が生じた場合、どのような犯罪が成立するでしょうか?

強盗・強制性交等致傷罪が成立するウホ!

残念! そうじゃないんだ。
本罪には”致傷”の規定はないから、強盗・強制性交等罪のみが成立すると解されているよ。
改正前の強盗強姦罪においては、被害者に傷害の結果を生じさせた場合については特別の規定が設けられておらず、そのような場合には単に強盗強姦罪のみが成立するというのが通説・判例の立場でした。
刑法改正後も、被害者に傷害の結果が生じた場合についての特別な規定は新設されていないため、傷害の結果が発生したとしても単に強盗・強制性交等罪のみが成立すると解されています。
強盗・強制性交等致死罪
刑法第241条第3項は、強盗・強制性交等罪のうち、強盗罪又は強制性交等罪のいずれかの罪に当たる行為から死の結果が生じた場合に、その先後関係等を問うことなく、重い処罰とするものです。
強盗・強制性交等罪の結果的加重犯として死亡の結果が発生した場合
強盗・強制性交等罪の結果的加重犯として死亡の結果が発生した場合は、強盗・強制性交等致死罪が成立します。
本罪が成立する場合としては、以下の4つのパターンが想定されています。
2.死の結果を生じた原因が強制性交等の行為である場合
3.強盗と強制性交等の犯意に基づき、財物奪取と性交等のいずれの目的をも達成するために行われた一個の暴行によって死の結果が生じた場合
4.死の結果を生じた原因が強盗の行為と強制性交等の行為のいずれか判然としないものの、どちらかが原因となって死の結果が生じたことは明らかである場合
強盗・強制性交等罪の行為に際して殺意もあった場合
本項は、殺意がない状態で人を死亡させた場合(結果的加重犯の場合)のみならず、強盗・強制性交等の機会に殺意をもって人を殺した場合にも成立します。
この場合には、強盗・強制性交等殺人罪が成立することになります。
余談ではありますが、改正前の刑法第241条後段の罪はいわゆる結果的加重犯であり、殺意の無い場合に限って成立するものとされていました。
そのため、強盗犯人が殺意をもって女子を強姦した後に殺害した場合には、判例・学説は強盗強姦罪と強盗殺人罪の観念的競合が成立するという立場をとっていました。

改正後は、何で強盗・強制性交等殺人罪の一罪が成立するようになったウホ?

そもそも、改正前の刑法第241条後段では「よって女子を死亡させたときは、死刑又は無期懲役に処する。」と規定されていたね。

この「よって~させた」という表現は結果的加重犯のみを対象としているから、殺意がある場合は含まないと解されているんだ。

なるほど!

改正後の刑法第241条第3項では、「よって~させた」の代わりに「第一項の罪に当たる行為により人を死亡させた者は」と規定されているけど、これこそが犯意(殺意)がある場合を含むことを明らかにしていると言えるんだよ。
参考文献
関係法令
刑法第177条:強制性交等罪
刑法第178条:準強制わいせつ罪、準強制性交等罪

刑法第179条:監護者わいせつ罪、監護者性交等罪

刑法第181条:強制わいせつ致死傷罪、強制性交等致死傷罪など

