暴行罪は、刑法第208条にて次のように記述されています。
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

”暴行”って人を殴ったりする暴力のことウホ?

一言で”暴行”と言っても、刑法での意味はたくさんあるよ。
今日は暴行罪について解説するね。
暴行概念の相対性
意義

”暴行”の意味がたくさんあるって、どういうことウホ?

刑法では度々”暴行”という言葉が出てくるけど、刑法では次の4つの態様で”暴行”を使い分けているの。
最広義の暴行
人に対するもの、物に対するものを問わず、有形力の行使すべてをいいます。
例: 騒乱罪(第106条)、多衆不解散罪(第107条)
広義の暴行
人に対する有形力の行使ですが、必ずしも直接的に人の身体に加えられることは必要ではありません。
例:公務執行妨害罪(第95条1項)、加重逃走罪(第98条)、強要罪(第223条1項)
狭義の暴行
人の身体に対する有形力の行使をいいます。
例:暴行罪(第208条)
本罪における暴行は、人の身体に対して不法な有形力を行使することをいう。
傷害の結果を発生させる可能性や物理的な力が直接的に人の身体に作用すること等の事実は、必ずしもこれを必要としない(最判S39.1.28)。
最狭義の暴行
人の抵抗を抑圧するに足りる有形力の行使をいいます。
例:強制わいせつ罪(第176条)、強制性交等罪(第177条)、強盗罪(第236条)
ただし、この最狭義の暴行であっても、強盗罪における暴行の程度と、強制わいせつ罪・強制性交等罪における暴行の程度は多少異なります。
強盗罪では反抗を抑圧するに足りる程度の暴行が必要であり、強制わいせつ罪・強制性交等罪では反抗を著しく困難ならしめる程度の暴行が必要といわれており、強盗罪における暴行は『暴行』の中でも最も強い態様のものであるとされています。

つまり、暴行罪でいう”暴行”とは、狭義の暴行のことをいうウホね。
不法な有形力の行使
本罪における暴行は、”不法な”有形力の行使とされています。
「不法であるか否か」の判断は、被害者に与えられた苦痛の有無・程度、行為の目的、行為当時の状況等を総合して、社会生活上認められるものかどうかによって決められます。

不法じゃない有形力の行使ってどんなものウホ?

日常生活において理由もなく人を殴ったら「不法な有形力の行使」になるけど、業務上の行為や相応の理由があれば「不法な有形力の行使」とはならないよ。
例としては、ボクシングの試合で人を殴る場合が挙げられるよ。
暴行に当たるとされた主な事例
手拳で人の身体を殴打する行為、手や足、頭髪等の人の身体、若しくは衣服をつかんでひっぱる行為、人の身体を激しく突き倒す等の行為は、暴行の典型的な事例です。
判例では、次のような行為も暴行に当たると認められています。
身体の接触による場合
1 人の毛髪、鬚髯(ひげ)を裁断し、若しくは剃去する行為(大判M45.6.2)
2 電車に乗ろうとする人の被服を掴んで引っ張る行為(大判S8.4.15)
3 塩をふりかける行為(福岡高判S46.10.11)
身体に接触しない場合
1 被害者の所持する空缶を蹴った行為(名古屋高判S26.7.17)
2 おどろかせるつもりで椅子を投げつけた行為(仙台高判S30.12.8)
3 狭い室内で抜き身の日本刀を振り回す行為(最決M39.1.28)
4 ブラスバンド用の太鼓を室内で連打し、被害者を朦朧とさせた行為(最判S29.8.20)

相手の身体に当たっていなくても暴行罪になるウホ?

「人の身体に対する有形力の行使」であれば、身体接触を必要としないというのが判例の見解よ。
犯意
暴行罪の犯意は、人の身体に対して有形力を行使することの認識を有することです。
この認識は、確定的な認識でなく、未必的な認識で足りると解されています。

「絶対に当ててやる!」という認識ではなくて「当たるかもしれないけど、当たっても構わない!」くらいの認識でも良いってことウホ?

その通りよ。
「確定的」とか「未必的」という概念の説明は、『故意と過失』のページで説明しているから確認してみてね。

暴行罪と傷害罪の関係
刑法第208条の条文によれば「傷害するに至らなかった」ときに、暴行罪にあたると規定しています。
つまり、暴行罪は、傷害罪の未遂という側面も持つことになります(傷害罪には未遂の規定はありません)。
また、逆説的に考えると、単純な暴行を加えただけであっても「傷害するに至」れば傷害罪にあたりますので、傷害罪は暴行罪の結果的加重犯ということができます。

結果的加重犯が分からないウホ。

『結果的加重犯』については、別のページにまとめているから確認してみてね。
私人による現行犯逮捕の場合における、暴行と本罪の関係
私人の現行犯逮捕においては、社会通念上、逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の実力を行使することが許されています。
たとえその実力行使が刑罰法令に触れることがあるとしても、刑法第35条により罰せられません(最判S50.4.3)。

現行犯逮捕する時は、何やってもいいウホ?

ダメだよ!
「社会通念上、逮捕のために必要かつ相当と認められる限度」の実力の行使だから、警察官が到着するまで暴れている犯人を押さえつけるようなものは認められるけど、必要以上に相手を殴って怪我させたり、相手を殺してしまっては「必要かつ相当と認められる限度」とは言えなくなるよ!

刑法第35条についてまとめたページもあるから、そっちも見てみてね!

他罪との関係
他の粗暴犯との関係
暴行を構成要件とする公務執行妨害罪、強盗罪などとは吸収関係にあるので、公務執行妨害罪、強盗罪のみが成立します(暴行罪は吸収されます)。
脅迫罪との関係
「ぶん殴ってやる!」というように、暴行を加える旨を告知して殴打した場合には、脅迫罪は本罪に吸収されます。
ただし、脅迫で相手に告知した内容が暴行より重大な法益侵害を内容としてなされた場合(「ぶっ殺すぞ!」と脅迫したうえで殴った場合など)には、暴行罪と脅迫罪の両罪が成立し、併合罪となります。
監禁罪との関係
監禁の手段として暴行が用いられた場合には、監禁罪のみが成立します。
ただし、例えば、監禁中の被害者の言動に対して被疑者が怒りを覚え、監禁罪の構成とは関係のないところで被害者に暴行を加えた場合は、監禁罪と暴行罪の両罪が成立し、併合罪となる場合もあります。
他の特別法との関係
特別法による加重類型として、暴力行為等の処罰ニ関スル法律(1条:集団的暴行、1条の3:常習的暴行、など)や火炎びんの使用等の処罰に関する法律などがあり、これらに該当する場合は単なる暴行罪よりも重く処罰されます。
まとめ

人を殴っていなくても「人の身体に対する有形力の行使」があれば暴行罪に問われるというのは分かったウホ!

日常生活においても「人の身体に対する有形力の行使」は頻繁に起こり得ることよ。
ゴリップルも気を付けてね!
参考文献

