監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪が新設された趣旨
18歳未満の人は、一般的に精神的に未熟であり、生活全般にわたって自分を監督し保護している監護者に経済的にも精神的にも依存しているといえます。
監護者が、そのような依存・被依存の関係や、保護・ 被保護の関係から生じる影響力を利用して18歳未満の者とわいせつな行為や性交等をすることは、強制わいせつ罪又は強制性交等罪と同様に、被監護者の性的自由や性的自己決定権を侵害するものです。
監護者による性的行為は、強制わいせつ罪又は強制性交等罪と同等の悪質性・当罰性が認められると考えられるため、監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪を新設して、強制わいせつ罪又は強制性交等罪と同様に処罰することとされました。

これまでの法律じゃ何が問題だったウホ?

13歳以上の者に対する「強制わいせつ罪」や「強制性交等罪」では何が必要だったかな?

暴行・脅迫が必要ウホ!

そうだね。

ただ、実子に対して性的行為が行われる場合、暴行・脅迫が用いられるとは限らないんだ。

改正前の法律でも、被害者が13歳未満だと暴行・脅迫がなくても強制わいせつ罪等が成立するけど、13歳以上だと…

犯罪が成立しないウホ!?

「児童福祉法」や「青少年健全育成条例」に引っかかることはあっても、強制わいせつ罪等で罪に問えなかったんだよ。

だから監護者わいせつ罪等が新設されたウホね!
「監護者わいせつ罪」「監護者性交等罪」の条文
監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪は、刑法第179条で規定されています。

「現に監護する者であることによる影響力に乗じて」とか、何だか条文が複雑で分かりにくいウホ。

出来るだけ噛み砕いて説明していくね。
犯罪の主体
本罪の主体は、18歳未満の者を現に監護する者という一定の身分を有する者に限られます(身分犯)。
現に監護する者
監護するとは、民法第820条に親権の効力として定められているのと同様に、監督し、保護することをいいます。
つまり、現に監護する者とは「18歳未満の者を現に監督し、保護する者」のことを指します。
法律上の監護権の有無
「現に監護する者」に該当するかの判断に際して、法律上の監護権の有無は問われません。
現にその者の生活全般にわたって、衣食住などの経済的な観点や、生活上の指導監督などの精神的な観点に立って、依存・被依存の関係や保護・被保護の関係が認められ、かつ、その関係に継続性が認められることが必要と考えられています。
「現に監護する者」に該当するかどうかの判断基準
「現に監護する者」に該当するかどうかは、以下の諸事情を考慮して判断されます。
・指導状況、身の回りの世話等の生活状況
・生活費の支出などの経済的状況
・未成年者に関する諸手続等を行う状況
「現に監護する者」に該当する例
・同居して子の寝食の世話や指導をしている親
・親の内縁の配偶者であって、子の寝食の世話をし、指導・監督をしている者
・親が行方不明となったため、その子を引き取って親代わりとして養育している親族
「現に監護する者」に該当しない例(特段の事情がある場合を除く)
・教師と生徒の関係にある場合の教師
・クラブの指導者と教え子の関係にある場合の指導者
・雇用者と被雇用者の関係にある場合の雇用者
犯罪の客体
18歳未満の者であり、男女の別を問いません。
行為
「18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力に乗じて、わいせつな行為又は性交等をすること」で本条の罪が成立します。
現に監護する者であることによる影響力
被害者の生活全般にわたって、衣食住などの経済的な観点や、生活上の指導監督などの精神的な観点から、現に18歳未満の者を監督し、保護することによって生まれる影響力のことをいいます。
「現に監護する者であることによる影響力」とは、ある特定の性的行為を行おうとする場面における、その諾否等の意思決定に直接の影響を与えるものだけをいうのではありません。
被監護者が性的行為に関する意思決定を行う前提となる人格、倫理観、価値観等の形成過程を含め、一般的かつ継続的に被監護者の意思決定に作用を及ぼし得る力が「現に監護する者であることによる影響力」に含まれます。
基本的には、18歳未満の者を現に監護し、その者の生活全般にわたって、経済的な観点、精神的な観点からも依存・被依存の関係、保護・被保護の関係が認められ、かつ、その関係に継続性が認められる状態であれば、「現に監護する者であることによる影響力がある」と認められるでしょう。
現に監護する者であることによる影響力に乗じて
「乗じて」とは、18歳未満の者に対する「現に監護する者であることによる影響力」の存在を前提として、当該行為時においてもその影響力を及ぼしている状態で性的行為をすることをいいます。
18歳未満の者を現に監護している者は、一般的には当該18歳未満の者に対して”影響力”を及ぼしている状態にあるといえるので、「現に監護する者」であることが立証されれば、現に監護する者であることによる影響力に乗じていたと認定されます。
このため、性的行為に及ぶ特定の場面において、影響力を利用するための具体的行為は必要ないと解されています。
わいせつな行為又は性交等
わいせつな行為は強制わいせつ罪(刑法176条)、性交等は強制性交等罪(刑法177条)に規定されているものと同じです。


着手時期
現に監護する者であることによる影響力に乗じてわいせつ行為(性交等)を開始したとき」が監護者わいせつ罪(性交等罪)の着手になります。
既遂時期
監護者性交等罪の既遂時期は膣内、肛門内、口腔内に陰茎の一部が没入した時点であり、必ずしも射精を必要としません。

………。

………。

……監護者わいせつ罪の既遂時期は?

う~ん… これは一概に言えないから難しいんだよねぇ。

どうしてウホ?

じゃあ、次の場合は何罪が成立するか考えてみて。

こんなの簡単!

「陰茎の一部の没入もない」んだから、監護者性交等罪は既遂じゃないウホ!

つまり監護者性交等未遂罪が成立するウホ!

本当にそうかな?

どういうことウホ?

例えば、「陰部に陰茎を入れることには興奮を覚えず、陰部の接触だけでエクスタシーを感じる」といった特殊な事情で、陰部の接触だけを目的としていた場合は?

性交等の目的がないのであれば、監護者わいせつ罪の既遂が成立する… ウホ?

表面的には同じ行為であっても、行為者の意思によって成立する犯罪が違ってくるウホね。

もちろん、行為者の意思も重要だけど、それだけで判断されるわけじゃないよ。

個々具体的な事案に応じて、被害者の年齢、精神状態、健康状態、犯行の時刻・場所・態様、その他諸般の事情を考慮したうえで、社会通念に従って判断されるのさ。

どういうことウホ?

じゃあ犯人が「僕は陰部を挿入するつもりはなくて、陰部を接触させるだけで満足なんだ!」と主張してきたら、ゴリップルはどう思う?

「そんなことあるか、ウソつくんじゃねぇコノヤロウ!」って思うウホ。

普通はそう思うだろうけど、私が言いたいのは「嘘か本当かは本人の言動だけでは判断できない」ってことだよ。

口だけでは何とでも言えるからこそ、その他の客観的な事情を考慮したうえで判断しないといけないんだ。

なるほど… 「わいせつ行為の既遂時期」と一言で言っても、説明するのは難しいウホね。
未遂犯処罰規定の有無
改正後の刑法第180条において「第百七十六条から前条までの罪の未遂は、罰する。」と規定されているとおり、本罪の未遂は処罰されます。
加重処罰規定の有無
本条により18歳未満の者に傷害又は死亡の結果を生じさせた場合に、「監護者わいせつ致死傷罪」「監護者性交等致死傷罪」が規定されています。
『刑法第181条:強制わいせつ等致死傷罪』のページで詳しく解説しています。

罪数
強制わいせつ罪・強制性交等罪との関係
現に監護する者が、暴行・脅迫を用いて性的行為に及んだ場合には、強制わいせつ罪又は強制性交等罪のみが成立します。
また、現に監護する者が、被害者の心神喪失又は抗拒不能であることに乗じて性的行為に及べば、準強制わいせつ罪又は準強制性交等罪のみが成立します。
児童福祉法違反との関係
監護者わいせつ罪又は監護者性交等罪と児童福祉法違反の罪との関係は、強制わいせつ罪又は強制性交等罪との関係と同様に、観念的競合として一罪として取り扱われます。
刑法第179条に関する諸問題
被害者の同意がある場合
本条の罪が新設された趣旨に照らせば、18歳未満の者が性的行為に対して同意していたとしても、監護者わいせつ罪や監護者性交等罪は成立すると解されます。
身分がない共犯関係にある者の刑責
冒頭でも述べたとおり、本条の罪は「現に監護する者」という身分を必要とする身分犯です。
では、次の場合はどうなるでしょうか?
この場合、「現に監護する者」という身分のない共犯者(B)に関しては、刑法第65条第1項が適用され、監護者わいせつ罪の共同正犯が成立することとなります。
犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても共犯とする。
参考文献
関係法令
刑法第176条:強制わいせつ罪

刑法第177条:強制性交等罪

刑法第178条:準強制わいせつ罪、準強制性交等罪

刑法第181条:強制わいせつ致死傷罪、強制性交等致死傷罪など

刑法第241条:強盗・強制性交等罪及び同致死罪


